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大阪地方裁判所 平成6年(ヨ)398号 決定 1994年7月05日

債権者

甲山乙子

債権者代理人弁護士

岩城穣

松本七哉

債務者

全日本電気電子情報関連産業労働組合連合会シャープ労働組合

右代表者中央執行委員長

川上哲宏

債務者代理人弁護士

岡田義雄

冠木克彦

主文

本件各申立てを却下する。

申立費用は債権者の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の申立て

一  債権者

1  債権者が、債務者の従業員としての地位を有することを仮に定める。

2  債務者は債権者に対し、平成六年一月以降毎月二五日限り、金一九四、二〇〇円を仮に支払え。

3  申立費用は債務者の負担とする。

二  債務者

主文と同旨

第二本件事案の概要と争点

債権者は債務者の経営する店舗の店長であるが、その売上金について使途不明金が発生した。本件は債務者はこれは債権者が関与したものであるとして懲戒解雇したのに対し、債権者は売上金の使途不明について関与を否定してその従業員の地位の確認と給料の仮払いを求めている事案であり、争点は使途不明金について債権者の責任の有無とこれを理由とする解雇の適法性にある。

第三前提たる事実について

本件疎明資料と争いのない事実及び審尋の全趣旨によれば次の事実が一応認められる。

一  債権者の業務内容と解雇までの経緯等について

1  債務者はシャープ株式会社の従業員で組織する労働組合であり、従業員の福利厚生のために商品販売等を目的とする事業センターを設置し、事業センターはシャープ株式会社の事業所内に売店を設置している。

2  債権者は債務者に昭和六二年四月七日に八尾西売店に三時間勤務のパートタイマーとして雇用され、同年七月一六日に六時間勤務に変更され、平成元年六月一六日に職員(嘱託)として採用され、平野売店の店長としての肩書で配置された。平野店には債権者の他二名のパートタイマーが配置されている。債権者の平成五年度の一ケ月の平均賃金は金一九四、二〇〇円である。

3  債権者は平成元年六月九日から一五日まで前任の店長から業務を引き継ぎを受けた。債権者の店長としての業務は、売店の業務全般であるが、これらは販売・会計・管理・その他業務に区分しうる。このうち売店の取り扱う販売業務は商品の直接販売、自動販売機による販売、斡旋商品の販売、旅行券宿泊券の取扱であり、会計業務、管理業務はこの販売業務に関するものである。

4  債務者は、平成四年一二月一五日の棚卸しに際し、同年一一月分の棚卸し資産と売上高に約金二二五万円の差額があることを発見し、これを債権者に指摘し、その後その解明のために債権者から聞き取りをおこなった。債務者は債権者に対し平成五年一月一四日に出勤停止とする旨の書面を送付し、同二月二日に右出勤停止は自宅待機の趣旨であるとの書面を送付した。その後解雇に至るまで双方弁護士も交え使途不明金の解明等折衝がされた。

5  債務者は債権者に対し平成五年一二月一三日付書面で後記二記載の金二、二三五、七二二円円(ママ)の使途不明金につき、債権者に責任があるとして就業規則第六六条一〇号、第六七条第八号により懲戒解雇とする旨の通知をし、同書面は同月一五日に債権者に到達した。

6  債務者の就業規則第六六条第一〇号には「第六七条第三号乃至第一三号に該当し情状酌量の余地がないとき」を懲戒解雇事由と定め、同規則第六七条第八号には「故意又は重大な過失によって組合に損害を与えたとき」と規定している。

二  懲戒解雇事由について

平野売店の平成元年一一月と一二月の売上は約金七八〇万円であるが、この二ケ月間で金二、九七八、九三一円の使途不明金が発生したが、この内金二、二三五、七二二円は、(1)日本レジャー観光旅行代金、顧客名磯田分金一二九、六〇〇円、顧客名シャープ東大阪サービスステーション分金三二四、四二七円、顧客名表野分金三一六、四〇〇円、(2)NTTテレホンカード代金一三四、〇〇〇円、(3)明治デーリ(ママ)のブリック自動販売機の売上代金一七二、三二〇円、(4)東洋食品オロナミンC売上代金二四〇、〇〇〇円、(5)タバコ自動販売機の売上代金二〇三、二一〇円、(6)千趣会商品売上代金二九五、二六三円、(7)斡旋商品売上代金四二〇、五〇二円の売上であるが、残余は売上品目が特定できない。債権者に対する解雇の理由は、この特定された売上に関する使途不明金の発生に債権者が関与しており、管理責任があるから就業規則第六六条第一〇号、同第六七条第八号に該当するというものである。

三  販売管理、会計管理等の業務について

1  債務者は毎日の売上等の管理について、以下のとおりの処理手続きを定めていた。債権者はこれに従い各種の業務を行うべきものとされ、またそのように行ってきたものであり、具体的には2記載以下の業務日報の作成や売上現金の確認や労働金庫に入金等の業務はパートタイマーでなく債権者の業務とされていたものである。

2  商品売上のうち、常時店舗にある商品を直接販売するものは売上伝票を作成し、その他のものについては後記3以下記載のとおりの伝票処理をしたうえ、その集計をした結果を業務日報に作成し、それを債務者の事業センター本部へ送付する。売上は現金回収した場合と掛け売りとなった場合とで明確に区分して記帳することとなっていた。

又売上金等の現金は毎日、前日の入金以後当日午後一時頃迄の分を労働金庫の職員が平野店に集金に来て預けて預金に入金手続きをする。この時釣り銭相当を留保する。この入金額と留保金額も業務日報の所定欄に記載する。この労働金庫に入金するまでは、開店中は手提げ金庫に保管し、閉店時は隣接する債務者の組合事務所にある大金庫に手提げ金庫ごと保管する。

尚「業務日報」の作成は、実際には労働金庫に入金後の時間に行われるが、作成の基準時は労働金庫に入金手続きをした時とされ、それ以降の売上等は翌日分として記載されていた。万一売上と現金の入金額に差額が発生したときは業務日報に不明としてこれを記載することとされていた。

3  日本レジャー観光旅行代金の売上とは、債務者が申立外日本レジャー観光株式会社(以下「日本レジャー」という)との間で、同社が債務者組合員やシャープ社員に鉄道券や宿泊券(以下クーポン券という)の販売を認め、その取扱高の二%を手数料として債務者が取得する契約が締結されていたことによるものであり、この契約により顧客たる組合員等は日本レジャーにクーポン券の手配を依頼し、日本レジャーはクーポン券を取得して直接顧客にクーポン券を代金と引換えに引き渡すのであるが、債務者はこの処理手続きとして、日本レジャーが債務者の売店にその代金を納品書三通とともに交付し、売店では三通に受領印を押捺して一通を日本レジャーに渡し、一通を債務者の業務センター本部へ送り、一通を売店が保管するシステムを採っていた。この場合の会計処理として業務日報の「直売売上高」欄の「旅行券」欄と「買掛金計上明細」欄に、貸借対照表の「商品」欄借方と「直買掛金」と「直売上高」欄貸方にそれぞれ記入し、労働金庫に入金したときは「普通預金」欄借方に記入する。但し顧客が現金を日本レジャーに支払っていないときは、売店が日本レジャーからクーポン券も預かり、顧客から集金してクーポン券を交付することとしていたので、業務日報の「買掛金計上明細」欄と貸借対照表の「商品」欄借方のみに記載し、実際に集金がなされた時点でその日の業務日報の「直売売上高」欄の「旅行券」欄と貸借対照表の「直売上高」欄貸方の(ママ)に記載がなされていた。

4  明治デーリのブリック自動販売機の売上については、毎月一回業者が来て自動販売機内部にある現金を回収し、現金と同額の納品書を作成して、現金とともに売店に納められる。この場合の会計処理として業務日報の「直売売上高」欄の空欄と「買掛金計上明細」欄に「ブリック」と記載して金額を記入し、貸借対照表の「商品」欄借方と「直買掛金」欄と「直売上高」欄貸方に、労働金庫に入金したときは「普通預金」欄借方にそれぞれ記入する。

又東洋食品のオロナミンC売上は、特別注文品であるが、そのような特別注文の場合でも、売店に納品がなされたときは納品書を作成し業務日報も前記と同様の記入処理をする。

さらに千趣会の商品その他斡旋商品は、カタログやビラを組合員に回覧して注文を受け、売店が業者に一括発注し、一定日に業者が納入したとき、納品書を作成し、業務日報も前記と同様の記入処理をする。代金未納のときは、実際に集金がなされた時点で、その日の業務日報の貸借対照表に記載がなされていた。ただ組合員に納入日が知らされているので、多くはその日に商品引取と代金回収がなされていた。

5  NTTのテレホンカードは、売店から業務センター本部へ注文して、本部から売店に注文票とともに送付される。商品は売店に陳列されないで、手提げ金庫に保管され、売上に応じて取り出していくこととされ、その売上についても業務日報には「直売売上高」欄にテレホンカードと記載する。

6  タバコ自動販売機の売上は、毎日パートタイマーの者が在庫数、補充数、釣り銭額、現金回収額を確認し「自販機売上管理表」に記載のうえ、店長である債権者がこれを検収したうえ、業務日報の「直売売上高」欄の「タバコ」欄に記載する。タバコについては自動販売機以外に売店でも直接販売しているので、この売上と区別するため、「自」「タ」として注記する。

7  業務日報の「直売売上高」欄の「現金売」欄の「他」欄は、同「現金売」欄記載の他の項目に記載された以外の売上を記載する。

第四使途不明金の発生と債権者の責任について

本件疎明資料と争いのない事実及び審尋の全趣旨によれば次の事実が一応認められる。

一  日本レジャー観光旅行代金について

1  顧客名磯田分 金一二九、六〇〇円の件

この件は、平成四年九月一四日に日本レジャーよりクーポン券が納品書とともに平野店に納入されているが、同日の業務日報の売上欄にはこの記載はなく、納品書も債務者の事業センター本部に送付されていない。又このクーポン券は同月二〇日から同月二三日までの東京ディズニーランドへの旅行であり、顧客は右クーポン券を受領して旅行を終えているものであり、その旅行前に債権者に代金を現金で支払ってクーポン券を受領しているが、二〇日以前の業務日報にはこの入金について何ら記載がない。旅行後の同年一〇月三〇日の納品書および業務日報でこのクーポン券の受領に関する記載がされているが、代金受領についての記載はなく、代金未受領として処理されており、それ以降も入金の処理をしたとの帳簿上の記載はない。さらに同日付の棚卸票には旅行券として金七二九、〇〇〇円の在庫があるとの記載がされているがこの内金一二九、〇〇〇円分については、該当するものがなく、本件の在庫とする趣旨で記載されたものというほかない。

2  顧客名シャープ東大阪サービスステーション分 金三二四、四二七円の件

この件は、平成四年一〇月一九日に日本レジャーより代金三二四、四二七円が納品書とともに平野店に納入されている。しかし同日の業務日報にはこの記載はなく、納品書も債務者の事業センター本部に送付されていない。又このクーポン券は同月一〇日から同月一一日までのレオマワールドへの旅行のものであり、顧客は右クーポン券を日本レジャーから直接受領して旅行を終えているものである。同年一一月二日の納品書および業務日報の売上の買掛欄には納品書の受領につき記載がされているが、代金受領についての記載はなく、代金未受領として処理されており、それ以降も入金の処理をしたとの帳簿上の記載はない。

3  顧客名表野分 金三一六、四〇〇円の件

この件は、平成四年一二月二一日に日本レジャーより代金三一六、四〇〇円が納品書とともに平野店に納入されている。しかし同日の業務日報の「買掛金計上明細」欄に納品の記載はあるが、入金がされたとの記載はされていないし、二一日以後も入金がなされたとする処理もされていない。

二  NTTテレホンカード代金 金一三四、〇〇〇円の件

この件は、平成四年五月七日債務者の業務センター本部より平野店に単価一〇〇〇円のテレホンカード二〇〇枚が送付され、平野店もこれを受領したことが業務日報にも記載されている。平野店は、このテレホンカード一三四枚を同月一二日にシャープ労働組合平野支部に金一三四、〇〇〇円で売却し、同日その代金を受領して領収書を作成して交付している。しかし同日の業務日報にはテレホンカードの売上として金一〇〇〇円の記載はあるが、右代金の入金については記載はなく、翌一三日以降の業務日報にも入金についての記載はない。他方単価一〇〇〇円のテレホンカードの在庫を示す書類として、同年五月二九日以降一〇月三〇日までの毎月の棚卸票には、常に二〇〇枚以上の在庫がある旨の記載がなされている。しかしこの時期本件売上があったのであるから、右売上相当分の在庫がなかった筈であるから、右各棚卸票の在庫数は実際に合致していないものである。

三  明治デーリのブリック自動販売機の売上代金 金一七二、三二〇円の件

この件は、平成四年一一月二六日に業者が来て自販機内部の現金を回収し、納品書とともに、現金一七二、三二〇円を平野店に納入している。右納品書には翌日に日報処理がされた旨の記載があるが、翌二七日の業務日報には納品を意味する「買掛金計上明細」欄と貸借対照表の貸方「直買掛金」の欄の記載はあるが、入金を示す記載はなく回収金は未受領として処理されており、その日以降にも入金を示す処理はされていない。

四  東洋食品オロナミンC売上代金金二四〇、〇〇〇円の件

この件は、申立外シャープエンジニアリング株式会社からの特別注文によるもので平成四年八月三日に納品がされ、その納品書とともに、オロナミンC(単価八〇円)三〇〇〇個が平野店に納入された。同日の業務日報にもこの納入の記載がある。そして平野店は同月三一日にこのオロナミンCを右申立外会社に納入してその売上代金二四〇、〇〇〇円を受領し、領収書を作成して交付している。しかし当日の業務日報にはこの入金を示す記載はなく、代金未受領として処理され、同日以降も入金を示す処理はされていない。

五  タバコ自動販売機の売上代金 金二〇三、二一〇円の件

この件は、平成四年一一月、一二月度の「たばこ自販機売上管理表」による回収金と業務日報に記載された回収金とに差額が存するもので、その過剰不足差額発生は次のとおりであり、結局金二〇三、二一〇円が不足し、その使途が不明である。(次の表で△は不足、その余は過剰を示す。)

月日 回収金額 業務日報上売上額 差額

一一月二日 金七三、〇三〇円 金四四、三六〇円 △金二八、六七〇円

五日 金二四、七六〇円 金七、五〇〇円 △金一七、二六〇円

一三日 金六〇、二七〇円 金一四、二五〇円 △金四五、九九〇円

一六日 金三九、二六〇円 金八五、二五〇円 金四五、九九〇円

二〇日 金六〇、〇七〇円 金一七、一二〇円 △金四二、九五〇円

二七日 金五二、五八〇円 金一一、八八〇円 △金四〇、七〇〇円

一二月四日 金六四、二五〇円 金一五、五二〇円 △金四八、七三〇円

七日 金一五、八一〇円 金二三、〇七〇円 金七、二六〇円

一〇日 金二五、一六〇円 金一五、〇四〇円 △金一〇、一二〇円

一一日 金四六、八六〇円 金五八、九八〇円 金一二、一二〇円

一八日 金七一、一六〇円 金一四、六六〇円 △金五六、五〇〇円

二一日 金一四、七七〇円 金七一、二七〇円 金五六、五〇〇円

二四日 金四九、一八〇円 金一五、〇二〇円 △金三四、一六〇円

六  千趣会商品売上代金と斡旋商品売上代金金七一五、七六五円の件

この件は、千趣会商品につき平成四年一一月分の売上金三四六、〇一七円、一二月分の売上金一二九、六二〇円の合計金四七五、六三七円があるのに、入金されたのは一一月分金六九、一二八円、一二月分金一一一、三〇〇円で、未入金が金二九五、二六三円あり、他の斡旋商品売上代金につき平成四年一一月分の売上金三二八、一三〇円、一二月分売上金七六七、七八三円の合計金一、〇九五、九一三円があるのに、入金されたのは一一月分金二五八、〇九〇円、一二月分金四一七、三二一円で未入金が金四二〇、五〇二円ある。この未入金額が使途が不明である。

七  以上の件すべては入金の事実が認められるのに、平野店の正規の帳簿上の入金処理がなされておらず、いわゆる使途不明金となっていることが認められる。そしてこれらすべての事実に関し、債権者は自ら業者から納品書と旅行券やテレホンカード等の商品を受領し、あるいは顧客や業者又はパート社員から売上金や自販機の回収金等を直接受領して、時には顧客に領収書等も発行し、又日々の業務日報の作成および労働金庫への売上金の入金手続きも行っており、その職務上直接関与していたものである。にもかかわらず債権者は、納品書を債務者の業務センターに送付せず、又業務日報にも納品や入金の事実を記載せず、使途不明が指摘されるや相当遅れて納品書の日付を変更して、納品事実のみ記載し、又は在庫がないのにこれある如き棚卸票を作成する等していることからすると、これら使途不明の原因には債権者が直接関与しているものと推認できる。

第五使途不明に対する債権者の主張について

一  これに対し債権者は使途不明の帳簿上不明の原因は業務日報の「直売売上高」欄の「他」欄に記載した結果であり、現実にその代金が不明になったものではないとの趣旨の主張をする。

ところで債権者は、債務者の企画した研修会にも参加し、又平野店に勤務してから約三年を経過していること、本件使途不明分を除いては、業務日報その他の書類を正確に記帳していること等からすると、債権者は業務日報等の帳票の内容やその記帳の目的あるいはや(ママ)項目毎の趣旨や記載方法等を含む平野店の商品や金銭管理業務を十分理解しかつ精通していたことが認められる。

又一ケ月の業務日報の「直売売上高」と「掛売」の売上合計は、その月の棚卸売上高と一致する記載方法がとられているものであるから、債権者主張のとおり、業務日報の「直売売上高」欄の「他」欄に記載したとしても、業務日報の売上の合計は棚卸売上高合計と一致し、全体として使途不明は発生しないものである。

しかし平成四年一一月の棚卸売上高は金五、三九九、五〇四円であるのに対し業務日報の直売売上高は金一、九六一、八八〇円、掛売高が金一、一八八、〇四一円で合計金三、一四九、九二二円で、金二、二四九、五八三円の差額が発生しており、債権者やパート社員が立ち会って棚卸しをした平成四年一二月の棚卸売上高は金五、三七九、六九四円であるのに対し業務日報の直売売上高は金二、三一八、八六七円、掛売高は金二、三三一、八六七円で上合計金四、六五〇、三四六円で、金七二九、三四八円の差額が発生していることからすると、その誤差は債権者主張の記載方法によっても説明がつかない程に大きいものであるといわなければならない。

二  この誤差について、債権者は盗難にあったものであると主張するのであるが、債権者の勤務する売店は申立外シャープ株式会社の事業所の社員食堂に隣接し、食堂と売店はショーケース等で区画されており、直売の商品売り場以外の事務スペースは直接社員が入室困難な構造であり、かつ販売は体面販売方式とし、閉店後は手提げ金庫ごと売店に隣接する債務者の支部事務所にある金庫に保管して、その金庫の鍵は支部役員が管理していたものであることからすると盗難自体相当困難であること、本件各使途不明部分はいずれも個別的な売上であり、その代金も多額であり又次の業務日には労働金庫に入金することから、不足あるときは現金を保管し入金手続きをする債権者が容易に発見しうることや、前記使途不明部分について度々不足が発生していたものであるのに、本件使途不明が判明するまで盗難等についての報告がされていないこと等からすると、盗難があったとの主張は容易に認めがたいところである。

三  以下各売上ごとに債権者の主張につき検討する。

1  前記第四の一の1記載の旅行代金の件に対する債権者の主張は、九月一八日午後に債権者本人が顧客の磯田より代金を受領したのでクーポン券を渡したが、二通の納品書と代金は金庫に置き忘れ、代金は同月二一日の月曜日に労働金庫に一部を入金し、その入金につき業務日報には「他」欄に記載し、納品書はそのまま金庫に入れたままとなっていたが、同年一一月二日に気づいて一〇月三〇日付の納品書を作成したが、代金の不足分はこの金曜日から月曜日の間に盗難にあったというのである。

しかし業務日報には「旅行券」の欄が印刷されており、入金があるときはこの欄に記入されるべきものであること、売上金は金一二九、六〇〇円であるのに、同月二一日付の業務日報(<証拠略>)の「他」欄の金額は金七七、三九三円であり、その全部を入金しないのは不自然であること、本来「他」欄に記載すべき売上がないとして尚本件代金額より五一、六〇七円も不足しており、債権者は容易にこの不足を知りうること、盗難にあったとする額は右代金額の一部であり、かつ端数を含むものとなり極めて不自然であること、一〇月三〇日に改めて納品書日付を書き直した上、業務日報の「買掛金計上明細」欄と貸借対照表の「直買掛金」にも記入するとともに、棚卸票を作成した際、全額を在庫として処理しているが、これらの処理では代金も受理しておらずクーポン券も引き渡していないこととなり、クーポン券を引渡し又九月二一日に入金したとする債権者の認識と相反する処理手続きとなっていること等からすると、この主張は容易に認められず、却って右納品書や棚卸票あるいは業務日報の作成は代金受領の事実を隠蔽するためになされたものと疑われてもやむを得ないものがあると言えるのである。

2  前記第四の一の2記載の旅行代金の件に対する主張は、二通の納品書と代金を受領した記憶がなく、納品書の甲山の印鑑もパートが押した可能性もあり、又盗難にあったというのである。

しかし債権者が本件代金三二四、四二七円と納品書を受領したことは(証拠略)より明らかであるし、他方債権者は債務者事業センターの担当者山中からの指摘によって、一一月二日に納品書の処理日を書換えるとともに同日の業務日報にその旨の記載しているが、債権者は代金の受領したことがないという記憶であるのに、何らの確認作業もせずに多額の未受領をしめすこととなるこれら書類を作成することは、自己の認識と相反する処理をしていることとなる。又債権者は平成六年六月七日の主張書面では仮定的に「他」欄に記載して労働金庫に入金をしているとの記憶のもとに右書面を作成したと主張するが、一〇月一九日の業務日報(<証拠略>)の「他」欄は金一四、九六八円の記載があるにすぎず、右代金の労働金庫への入金確認は過去の業務日報を確認すれば容易であるのに、その確認しないまま前記書類を作成しており、同様債権者の認識と相反する処理手続きとなっていること、入金手続きのないのは盗難されたものであるとの主張については、金額が多額であり債権者が容易に発見できる立場にあること等からすると、債権者の各主張は容易に認められず、却って代金受領の事実を隠蔽するために右納品書や業務日報を作成したものと疑われてもやむを得ないものがあると言えるのである。

3  前記第四の一の3記載の旅行代金の件に対する主張は、当日の業務日報の「他」欄に記載しており、一部不足分は翌業務日の業務日報上の「他」の欄に記入して入金したというのである。

しかし業務日報には「旅行券」の欄が印刷されており、入金があるときは然(ママ)この欄に記入すべきものであること、売上金三一六、四〇〇円であるのに、同月二一日付の業務日報の「他」欄の金額は金二九八、六八四円(実際の記載は金二八八、一七二円であるが、これは他の記載事項から計算間違いによる誤記であること明白である。)であり、本来「他」欄に記載すべき売上がないとしてもこれは本件代金額より金一七、七一六円も不足し、翌日の二二日の業務日報(<証拠略>)の「他」欄の記載額は金二四、三八四円であるから、全額入金がされているようにみえるが、そもそも債権者は入金に際しては容易にこの不足を知りうること、単一の収入案件を二日に分けて、しかも所定の項目以外の欄に入金手続きをすることは不自然であること、本来「他」欄に記載すべき売上も相当あること等を考慮すると債権者の主張は容易にこれを認められない。

4  次にNTTテレホンカード代金一三四、〇〇〇円に対する債権者の主張は入金後盗難にあったというのである。

しかし既にみたごとく売上当日の業務日報(<証拠略>)にはテレホンカードの売上につきが(ママ)一〇〇〇円のみの記載がされていること、金額が多額であることから債権者は入金に際しては容易にこの不足を知りうること、その後の棚卸票(<証拠略>)の記載が事実と異なる記載がなされていることからすると、右棚卸票の記載は本件の代金受領の事実を隠蔽するためになしたものと疑われても止むをえないものであり、その主張は容易に認めがたいと言わなければならない。

5  明治デーリーのブリック自販機の売上金一七二、三二〇円に対する債権者の主張は、一一月三〇日の業務日報の「他」欄に記入しているというのである。

しかし既にみたごとく納品書(<証拠略>)には、一一月二七日の業務日報に処理する旨の記載がされていること、同日の業務日報(<証拠略>)にも納品の事実の記載があること、金額が多額であることから、入金のみ記載することを失念することはありえないし、債権者は入金に際しては容易にこの不足を知りうること、単一のかつ多額収入案件であるのに四日後に記載する理由もなく、又内容不明確な「他」欄に記載することは不自然であることからすると、その主張は容易に認めがたいと言わなければならない。

6  東洋食品オロナミンCの売上代金二四〇、〇〇〇円に対する主張は、八月三一日の業務日報(<証拠略>)の「他」欄に記入して入金手続きをしているというのである。

同日の日報には多品目の記載事項があることから「他」欄に記載することも考えられないではないが、カメラ欄にユニマットの分を、斡旋欄に別の品を記載していることや、他に空き欄もあること、金額が多額であることからすると、別の空欄に記載することが容易でありその必要もあるのに、内容不明確な「他」欄に記載することは不自然であること等からすると債権者の主張は容易に認めがたい。

7  タバコ自販機の回収金に対する主張は、翌日の業務日報の「他」欄に記入して入金手続きをしているというのである。

しかし右回収当日や翌日の業務日報(<証拠略>)の「タバコ」欄には「自」と「タ」等と、売店における販売額と自販機における販売額を区別して記載していること、一一月一六日、一二月七日、一一日、二一日の過剰が発生している分については業務日報では当日の分と前日の不足分(当日の過剰分でもある。)とが明確に区別できるように「自」欄が二段に記載されていること、右のように明確に区別されて記載がされているのに、回収金のうち前表記載の不足差額部分のみ、わざわざこれと異なる内容不明確な「他」欄に記載することは不自然でありかつ不必要であることからすると、その主張は容易に認めがたい。

8  千趣会や斡旋商品に対する主張も、翌日の業務日報の「他」欄に記入して入金手続きをしているというのである。

しかしこれら商品は「斡旋」欄に記入することとしていたこと、本件未入金の一一月分約三四万円余、一二月分金三六万円余りが「他」欄記載とされていることとなり、その額が多額であり不自然であること、千趣会の売上のうち一一月二〇日金八九、二四〇円の売上については次業務日の二四日の業務日報(<証拠略>)の「他」欄では金六八、九四一円で金額が不足していること、債権者の主張では右二四日分には前記タバコの自販機の一一月二〇日分の回収金四二、九五〇円もふくまれることとなり益々不足があること、一二月一七日金一一八、六四〇円の売上については一八日の業務日報(<証拠略>)の「他」欄では金六九、六一七円で金額が不足していること、その他斡旋商品一一月一〇日の売上は金二七四、二三(ママ)円であるが、一一月一一日の業務日報(<証拠略>)の「他」欄は金五二、三六五円で金額が不足していること、本来「他」欄に記載すべき売上も相当あること等を考慮するととその主張は容易に認めがたい。

9  前記のように債権者は各売上について、当日や他の日の「他」欄に記載した旨主張するが、その金額は平成四年一一月分に該当するものは明治デリー自販機売上金一七二、三二〇円、タバコ自販機売上金一二九、五八〇円、千趣会等斡旋品売上金三四六、九二九円で合計金六四八、八二九円となり、又一二月分に該当するものは日本レジャーの旅行代金三一六、四〇〇円、タバコ自販機売上金七五、六三〇円、千趣会等斡旋品売上金三六八、七八二円で合計金七六〇、八一二円となる。

他方棚卸しの結果によると、本来「他」欄で処理されるべき一一月度の売上は金九二八、八九〇円、一二月度は金六六五、六七〇円である。そうすると債権者主張によれば一一月の「他」欄の合計は金一、五七七、七一九円、一二月の合計は金一、四二六、四八二円となるが、実際に業務日報の「他」欄に記載された額は一一月で金七五四、四五一円、一二月は金一、一六四、〇三四円であり大きく相違しており、「他」欄全体からもその主張は容易に認めがたいものである。

第六結論

以上の事実を総合すれば、債権者は平野店における商品等の販売に関する金銭管理等の業務を職務としており、その金銭の管理責任を負うべきものであるところ、債権者が、直接前記使途不明金の受領を含む処理手続きをしていたことから、その使途不明の発生につき債権者が関与していたことが推認されるものであるから、債務者の懲戒解雇は相当の理由があるといえる。

債権者は債務者の管理体制等が不十分であり又出勤停止処分がされたことにより本件解雇は二重の処分になると主張するが、債務者の管理体制が特別不十分であるとは認められず、又出勤停止については自宅待機であるとの趣旨が債権者に通知されており、自宅待機期間中は所定の給与も支給されており二重処分に該当しないから、この主張も理由がない。又解雇に至るまで使途不明金につき長期間にわたる調査がされており、債権者にも十分な弁明の機会が与えられていること等他に解雇権を濫用とする事由も認められない。

そうすると債務者の本件解雇は正当であり、債権者の申立ては理由がないからこれを却下することとし、申立費用については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 松山文彦)

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